PACSとは・・・

更新 2012年9月1日

【概念】

 PACS(Picture Archiving and Communication System)とは、主に医療において使われるシステムで、CT, MRI, レントゲンフィルムなどの医療用画像データをネットワークでやりとりすることを言います。基本概念は1980年頃にできました。画像をモニターで見る、データ配信はネットワークを使う、医療機関同士のデータの配信もネットワークを使う、データの保存は電子的に行う、これらの4つの基本概念からできています。日本で最初に実際に作ったのは北海道大学でしたが、当初はほとんど使い物にならず、全国の放射線科医から冷笑されていました。永久に実用化できないであろうと一般の放射線科医には思われていました。実用になったのは、1990年代の後半くらいからだと思います。私がPACSにたずさわったのは、放医研に勤めるようになった1995年頃ですが、その当時でも、PACSはデータ保存だけしか使い道がないというのが、一般的な放射線科医の支配的考えでした。放医研の医療情報管理者も、”保存しか使い道がありませんよ”、という態度でした。当時の医療情報分野の研究者は、このため、ISACという、MOを使った画像データ配信システムを生んでいます。要するに、MOにデータを書き込んで、手渡ししなければ、相手にデータを送ることはできないと考えたのでした。放医研でも、このMOを使っていました。過去のデータを見たいというと、後日、MOでデータを渡されるのです。今考えると信じられないような状況でした。でも、わたしは、ISACを笑う気にはなれないです。後からだったらなんでも言えるでしょう。わたしも、”PACSは、夢のまま終わるシステム。別の研究をやったら・・・”と周囲から、ずいぶん言われて、内心あきらめかけていたのを懐かしく思い出します。私に先見の明があったとは言いません。私も PACSは、駄目なんじゃないかと思っていたのです。何の成果もあげずに大学に戻るつもりでした。1998年に、日本放射線学会で、診断部に限定したPACS(MRIとCTとAngioに限定)について発表していますが、限定されすぎていて、それはPACSとは言えないのではないかと批判を浴びました。しかし、この当時は、これで動かすのがやっとでした。しかも、実用性はないに等しいものでした。なにより、転送スピードが10 Mbpsでしかなかったことが大きい要因です。しかし、この発表の時に使用した、私が管理者として導入したID STOREというドイツ製のサーバーでは、ずいぶん勉強させていただきました。なんといっても、この製品が正規のDICOM規格であったことが幸いしました。この製品を入れるまで、放医研には、DICOM規格のサーバーがなかったのです。日本代理店のAdam NETがうまくインストールができず、西ドイツから技術者が1週間ほど滞在してインストールしていきました。今となっては懐かしい思い出です。ネットワーク技術についても勉強になりました。通信エラーが頻発したからです。パケット解析の技術は、この時に身につけたものです。

 2000年頃からPACSは、急速に実用化・普及していきます。工業分野での進歩がPACSの実用化に貢献しました。PACSが実用になったのは、LAN技術の発達、コンピュータ技術の発達、および設備費用の低下が、大きな要因だと考えています。

 画像フォーマットおよび転送の規格がACR NEMA2.0からDICOMに変わり、これもPACSの実用化に貢献しました。DICOMではデータ構造が、NEMAから、かなりの部分が変更になっています。NEMA2.0に決められた規格では、検査データを再現することが完全にはできなかったのです。(NEMA2.0規格だけで作られたPACSシステムがあったのですが、DICOM3に変更になったときに、大問題を引き起こすことになりました。この件については、2005年の放射線学会で、私が発表しています。)

 LANを含むPACS技術とモニター診断技術が、フィルムレスシステムを構成する基礎技術であると言えます。モニター診断については、別項目で解説しました。

【背景】

 医療において、CT,MRI,PET、超音波などの画像診断は、疾患の診断、管理になくてはならないものになっています。以前は、レントゲンフィルムが、画像診断の基本でしたが、最近は、MRI, CT, PET, 超音波などのデジタル画像が診断画像の主流となっています。一般X線撮影もデジタルデータとなりました。人体の検査法には、血液検査などのような数値型データと、CT, MRIなどに代表される画像型データの2種類があります。数値系も画像系も医学の進歩により、データが増大する一方です。特に、画像系は、検査が精細になっており、3次元画像、4次元画像(3次元+時間軸)、動画というように発展してきており、データ量がものすごい勢いで増加してきています。なお、現在の画像データは、単なる絵ではなく、ひとつひとつの画素が数値データとしての意味を持っています。

 3次元データが出現した段階で、フィルムに画像を印刷するのが不可能になりました。2次元のデータも、増大しているため、データの保存、配布方法が問題となりました。PACSは、このような医療の需要に対する答えなのです。今もっともデータ量が多いのは、動画系のデータと思われます。 PACSが現れた当初は、ネットワークが遅く、周辺コンピュータ技術も低かったため、実用になっていませんでした。周辺技術の発展により、デジタル画像データの配信が可能になってきました。CTやMRIなどの画像データの容量は増大する一方で、おいかけごっごが続いています。

【DICOMとは】

 医療画像データの配信、画像の保存フォーマットは、DICOM という規格で統一されています。DICOMとは、Digital Imaging and COmmunication in Medicine の略で、米国放射線学会(ACR)と北米電子機器工業会 (NEMA) が開発した医用画像と通信の標準規格です。X線、CT、MRI、PET、超音波などのデータのフォーマットを規定しています。そして、これらのデータをサーバーに貯蔵したり、端末に送る方法を規定しています。

 一般的に、どんな分野でも、規格は複数存在するのが普通です。たとえば、パソコンのOSが4つ(UNIX, Windows、Mac、Linuxというように)あるように・・。違うOSのパソコンのデータを利用することは、当初難しく、ユーザーは大変不便でした。最近は、問題なく相互のデータを利用できるようになりましたが、ごく最近のことです。しかし、医療画像においては、パソコンのOSにあたる共通規格は、DICOMしかありません。これは幸せでした。これに準拠しさえすれば、相互通信ができるからです。

 CTやMRIの画像データは位置情報、ピクセルサイズ、撮影装置の名前、撮影装置の性能、検査日、患者名、患者ID、検査技師名等の情報をもっていますが、たとえば外部の施設で撮影されたCTのフィルムをスキャナーで読み込んだ時は、そういった情報は手動で入力しなければ存在せず、単なる絵になってしまいます。絵の情報だけの場合、利用価値はかなり低くなります。以前は、画像データはフィルムで紹介されてくることが多かったのですが、現在は、ほとんどがDICOM規格のCD、DVDで送られてきています。

 CT,MRIなどにおいては、画像データ一枚一枚に、管理情報がはいっていて、データのハンドリングが重いのが欠点とされていましたが、ネットワークやコンピュータの処理速度が速くなったため、問題とされることが少なくなってきています。

 DICOMは、オブジェクト指向のデータです。オブジェクト指向のデータの特徴は、中身と、その管理情報が同じファイルに書かれていることです。DICOMの場合は、管理情報はヘッダに書かれています。ヘッダには、通信に関する情報、患者情報、検査情報などが大量に含まれています。CT,MRIなどでは、スライス1枚ごとに、ヘッダが書き込まれています。ヘッダ部分に、何バイト目からデータが始まるのか、書かれています。このため、中身とヘッダで混乱することがないのです。

【DICOMデータのヘッダにはどんなことが書いてあるのか】

 大きく分けて、Public情報と、Private情報に分かれます。Privateというのは、DICOMの正式規格ではなく、メーカー固有の情報です。DICOM正式の規格であるPublic情報には、偶数番号が割り振ってあり、奇数番号がPrivateです。Private番号だからといって、消去してはいけません。現在のDICOM規格に載っていなくても、将来使われる可能性があるからです。あるいは、メーカーが何らかの形で利用している可能性があります。DICOMはオールマイティではないのです。

 最初にDICOMである旨の宣言がしてあり、実データがどこの番地から始まるかの記載があります。最初のほうに、器械、検査日時、病院名や患者さんの名前や誕生日などの記載があり、その後に、通信方法に関する情報、検査に関するデータが並びます。検査のID(Study Instance UID)やスライス毎のID(SOPinstanceUID)などが割り振ってあり、これを元に、画像の判別を行っています。なぜこんなことが必要かというと、同じ画像を二重登録してしまうのを防ぐのです。UIDとは、UNIQUE Identifierの略で、世の中に同じ数値は2つとない、ということを意味しています。古いモダリティには、転送するときに、UIDを付け替えてしまうものがあり(SiemensのVISIONなど)注意が必要です。転送するごとに、UIDをつけかえてしまうので、同じ画像が、別の検査画像であると認識されてしまうのです。間違って、二重に送ると、二重登録されてしまうことになります。

 検査に関するデータとしては、検査の種類、検査部位、シークエンスの名前、FOV(Filed of View)、患者さんのポジション(腹臥位、背臥位、側臥位)、スライスの厚み、ピクセルデータの間隔、シリーズ数、シリーズナンバーなどが入っています。これらのデータの他にも、実際の読影には不必要な大量のデータが入っています。Viewerによっては、これらの情報をユーザーが選んで自由に表示できるシステムがあります。これらの情報は当然ながら、他のアプリケーションから使えます。

 従って、たとえば、三次元の元になった薄いスライス(1mm以下)の画像は、どこそこには転送しない、といったデータのハンドリングができることになります。画像処理を加えたシリーズは、たいてい500番台以降のシリーズナンバーをつけられているので、シリーズナンバーを見て、転送先を変更することも可能です。依頼医の端末に直接送ることも可能ではありますが、そのためには、検査時に依頼医の名前を入力しておく必要があります。

 下図は、その内容の一部です。たいていのDICOMビューワーには、このような内容表示の機能がついているはずです。修正はできないことが多いようです。(eFilmにはついています。)ダンプは途中までです。ここから下に患者情報や検査情報が続きます。ちなみに、最近は、Osirix(Mac)を使っています。現時点で、フリーのビューワーとしては最高のシステムのひとつだと思います。

【DICOM規格は絶対守るべきか】

 DICOM規格は、非常に重い規格です。たとえば、CTであれば、1スライスごとに、大量のヘッダ情報が書き込んであり、これの処理にコンピュータのパワーを消費してしまいます。また、1スライスごとに独立しているために、全体の枚数などがわかりません。データ転送の途中でデータ脱落があっても、DICOM上では、わかりません。このため、DICOM規格には、後からworklistという方式が付け加えられています。正式なworklistであれば、検査のスライス数が書いてあります。

 DICOMの”重い”という欠点をさけるため、メーカー独自の転送方式を使っているシステムが増えてきました。放医研もそうです。何より業務がうまくいくことのほうが大事なので・・。データとしての利用と読影とはわけて考えるべきです。そうでなければ読影業務は成立しないというところまで、データが増えてしまっています。しかし、それでも、機器類は、いざというときには、DICOMで転送できるように、備えられている必要があると思います。そうでなければ、データはその器械の中に孤立し、死んでしまうことになります。一人分の患者さんのデータくらいであれば、CDRに書き出すことで出力しても良いですが、何かトラブルがあったときなどに、保守のためにCDでデータ受け渡しをするのは非常に大変です。実は私はそういうはめに陥った経験があります。CDRの管理データベースが壊れてしまい、何百枚ものCDRを1枚ずつ読み取らなくてはならなくなりました。この時は、業者がやってくれたので、私は見ているだけで済みましたが・・・。たとえ、普段は、特殊なプロトコル転送を使っていたとしても、いざという時に、汎用のプロトコル(要するにDICOM)でネットワーク転送出来る体勢を整えていくことは極めて重要だと考えています。

 

【放射線医学総合研究所のPACSの変遷】

 現在の放射線医学総合研究所の病院のPACSは、4代目になります。初代は NTT( 1995年)でした。この時代はまだ NEMA2.0でした。2代目からは DICOMでTechmatrix, 3代目は Fuji Synapse,4代目(2011年から)は ケアストリームヘルス Carestream Healthです。

 Carestream Healthの PACSの特徴はいくつかありますが、気にいっているのは、次の機能です。

1) 位置合わせを自動で行なってくれる。例えば今日の CT検査と前回の CT検査の位置合わせを自動でやってくれます。一般的な画像表示システムでは、位置を指定してシンクロさせる必要がありますが、その指定が必要ありません。表示されている検査を選んで、シンクロせよ、と設定するだけです。横断像でシンクロさせると、冠状断像、矢状断像も自動的にシンクロされます。同じ位置を自分で探さなくて良いので非常に便利です。特に、放射線治療のように、腫瘍が徐々に小さくなっていくような医療を行なっている施設では、大変便利な機能です。導入する前は、ほんとうにそんなことが可能なのか半信半疑でしたが、実際使ってみると、かなり精度が高いです。もう1年以上使用していますが、全然合わないということは滅多にありません。ただし、合わせにくい画像はあるようで、その時は、シンクロ不可能と表示されます。他院の CTとの組み合せなどの場合に起きやすいです。肺の CT像の場合、患者さんの息止め量が検査の都度違うことが多く、ずれることもありますが、簡単に修正できます。CTと MRIの組み合わせでも、問題ありません。ただし、CTと MRIの組み合わせの場合、CTと CTの組み合わせに比べて、シンクロ不可能と表示されてしまうことがやや増える印象です。

2) 今日行った検査が頭部の CTであれば、自動的に前回の頭部CTを検索し、並べて表示してくれます。MRIも同じです。

3) データの転送が速い。多分、マルチスレッド転送を行なっているのだろうと思いますが、隣の部屋に置いた AQネットのサーバーからの転送よりも高速です。正直驚きました。私はこれを見て、もう診断部門サーバーは必要ないと考えました。2011年まで、診断部門の研究用として AquariusNetの AQNet serverを置いていました。

4) ローカルで 3次元処理ができる。実用的な時間で、診断しながら、3次元処理ができます。2011年以前は、データを WorkStationまで送って 3次元処理を行うか、モダリティのところへ行って、画像処理を行なっていたのですが、もうそういう必要はなくなりました。モダリティで、3次元用の薄いスライスを追加で作成することはよくありますが・・・。

 ソフトのヴァージョンアップが速いところも気にいってます。

 なお、Carestream Healthという会社は、コダックから別れて作られたそうです。